vol.70

文豪たちの足跡をたどり静かな山あいの温泉地、修善寺にくつろぐ

天皇や皇族、文人、墨客が逗留した
名旅館は昔の姿を残しつつ、より快適に進化
清流、狩野川が育む鮎やズガニを食し
桂川沿いや竹林を散策する


古き良き時代をいまに伝える特別な温泉地

おとな旅 伊豆

鄙びた、と形容してもいいような山あいの温泉地、修善寺。日本全国には、いや、伊豆半島内に限ってみても熱海に伊東、下田をはじめ、旅行者向けのスイーツ店や干物屋の並ぶ長い商店街でのショッピングやマリン・アクティビティが楽しめる、華やかな賑わいを湛えた温泉街が数多ある。そのなかで修善寺は一見地味にも思えるが、洗練された風情と街並みが素晴らしく、多くの歴史的逸話や錚々たる文豪たちの足跡が残された特別な土地だ。
また、歩いて散策できるほどの小さなエリアでありながら、老舗名旅館の質の高さ、数の多さにも驚かされる。新規感染者何人、重傷者何名など、暗く、不安を駆り立てるようなニュースが日々伝えられ、どこか落ち着かない心持ちになりがちな時世の今、修善寺ゆかりの作家たちの小説を携えて老舗の宿に逗留し、ゆったりと温泉につかったり、寺や竹林、桂川沿いを散策したりするのは、健やかな心身を保つために最高の薬となる。


修善寺温泉の始まり、独鈷の湯

おとな旅 伊豆

修善寺の中心を流れる桂川沿いに位置する独鈷の湯。この清流で少年が病の父を労わりながらその身体を洗い清めていた時、通りかかった弘法大師が川の水では冷たかろうと、持っていた独鈷で川底の岩を突いたところ温泉が湧き出したという。大師に教えられたとおり、この温泉で療養を続けた父親の長患いは瞬く間に快癒した、という逸話が修善寺温泉の始まりとされている。 現在、独鈷の湯自体は見学のみで入浴不可となっているが、修善寺に湧く温泉は五十肩やリウマチ、胃腸機能の回復、自律神経の回復など多岐にわたる心身の不調に効くとされ、開湯以降、北条政子や頼家ら歴史上の人物に、また、夏目漱石や井伏鱒二、川端康成、森鴎外、横山大観ら文化人に愛された温泉街でもある。彼らが建てた寺社、逗留しつつ執筆や闘病をした湯宿が今も当時のままの姿を残しつつ現役のままその役割りを担う修善寺の街。宿の中を、あるいは街中を散策しているだけで心が落ち着いてくる。


水上の能舞台がシンボル。日本を代表する名旅館

■あさば

おとな旅 伊豆

京都の俵屋と並び称され、「西の俵屋、東のあさば」といわれる老舗名旅館。明治後期、もともと富岡八幡宮にあった能舞台があさば内の池の上に移築され、今でも定期的にお能や狂言、新内流しなどが催されている。500年をゆうに越す老舗旅館でありながら、現代の私たちに使い勝手よく改築を施しており、日本通で知られたフランスの亡きシラク大統領が何度も逗留したことでも知られている。玄関の唐破風と大きな暖簾に圧倒されるが、チェックインしてしまえばサービスのプロたちの手で心地よくもてなされ、ゆったりとくつろげる。設え、食、風呂はもちろんのこと、タオルやシーツといった細部にいたるまで細やかな心遣いが行き届いており、心からリラックスした特別な休日を過ごすことができる。


おとな旅 伊豆

 電話番号 :0558-72-7000
 住所 :伊豆市修善寺3450-1
 アクセス :伊豆箱根鉄道・修善寺駅からタクシーで7分
 駐車場 :あり
 [IN]14:30 [OUT]11:30
 [客室数]16室
 [予算]1泊2食付き4万6050円~(税別)
(『おとな旅プレミアム 伊豆 ’19-’20年版』 P.31)


池を泳ぐ鯉を眺めつつ安らぐ天平大浴堂

■文化財の宿 新井旅館

おとな旅 伊豆

15棟の建物が国の有形文化財に指定されており、桂川の水を引き込み、川の本流へと戻す池の周囲に建てられた日本建築は、まるで舞台装置のような趣。さらに舞台装置では醸し出せない本物ならではの風格を湛え、四季折々の木々、花々の風情も素晴らしい。なかでも、昭和9(1934)年に建てられた天平大浴堂は、中庭の池をガラス越しに眺めることができ、芥川龍之介が妻への手紙で「水族館のようだ」と描写したままの姿を今に残す。芥川のほか、横山大観、初代中村吉右衛門、二代目市川左団次、岡本綺堂、尾崎紅葉、幸田露伴、島崎藤村、川端康成、正岡子規、高浜虚子など、宿泊した文人、墨客、名優は枚挙にいとまがない。また、宿泊せずとも10:00、16:00から催される登録文化財ガイドツアーに参加すれば(ドリンク付き1500円。宿泊者はドリンクなし500円)館内を拝見することも可能。


おとな旅 伊豆

 電話番号 :0558-72-2007
 住所 :伊豆市修善寺970
 アクセス :伊豆箱根鉄道・修善寺駅からタクシーで5分
 駐車場 :あり
 [IN]15:00 [OUT]11:00
 [客室数]31室
 [予算]1泊2食付き2万3000円~(税別)
(『おとな旅プレミアム 伊豆 ’19-’20年版』 P.36)


昭和天皇もご滞在になった老舗旅館

■湯回廊 菊屋

おとな旅 伊豆

夏目漱石が愛した宿として知られ、胃潰瘍で大量の血を吐いて意識を失い、生死の境を彷徨った折にもこの宿に滞在していた。妻や、東京から呼び寄せた医師の看護によって快癒したが「修善寺の大患」といわれる静養生活を過ごした部屋は今も残されている。また、幼い頃の昭和天皇や皇族の方々、乃木希典大将や副島種臣伯爵などが逗留された名旅館でもあり、明治、大正、昭和、平成と各年代ごとに増改築を繰り返したため、回廊の名のとおり、迷路のような館内を探索すれば、時代によって趣も技法も異なる建築様式が楽しめる。


おとな旅 伊豆

 電話番号 :0558-72-2000
 住所 :伊豆市修善寺874-1
 アクセス :伊豆箱根鉄道・修善寺駅からタクシーで5分
 駐車場 :あり
 [IN]15:00 [OUT]11:00
 [客室数]44室
 [予算]1泊2食付き1万9000円~(税別)
(『おとな旅プレミアム 伊豆 ’19-’20年版』 P.37)


*施設や店舗の営業などは事前にご確認ください。


画像素材: PIXTA 他


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