Vol. 32

雨に濡れ、一層艶めく古都の風情新緑も紫陽花も恵の雨に活力を増す

紫陽花に竹林、新緑。
しっとりと雨に濡れて
輪郭も色彩もくっきりと華やぐ
雨の季節の古都、鎌倉

雨の季節にこそ美しい、鎌倉の風景

鎌倉には雨の季節が似合う。古都の佇まいにしっとりとした情緒が加わって、画竜点睛、かくあるべきという風景になる。
梅雨の鎌倉、といえば紫陽花を思い浮かべる人も多いだろうが、それだけではない。雨の日に散策してみると、恵の雨を受けて生き生きとした表情を見せる木々や花々はもちろん、路面の濡れた小道や切り通し、古刹のたたずまいから江ノ電の駅舎に至るまで、どこを切り取ってみても、そぼ降る雨の風情こそがこの街のもっとも美しい姿なのだと思う。もともと鎌倉という街は湿気の多いところで、谷戸、と呼ばれる数多くの谷間に海風がこもり、さらには、海岸線近くまでせり出した山影が日光を遮りがち。湿度の高い風土が育んだ街は、雨の季節こそが本領なのかもしれない。


鎌倉六十六谷と言われる谷戸が造った日本庭園

鎌倉には名園を備えた寺院がたくさんあるが、同じ日本庭園でも、平安の貴族たちが京都に作った大きな池泉を中心とする浄土庭園や、広々とした土地に松や桜などの木々を配した大名庭園とはまるで趣が異なる。戦の多い時代の武士が築いた都であることや、鎌倉時代にさまざまな発展を遂げた仏教の影響もあるのだろうが、鎌倉特有の庭園が造られた最大の理由は、この、小さな谷の多さと湿度の高さにあると言える。鎌倉六十六谷と言われるほど細かく谷と稜線が土地を仕切っているため広大な平地が取れず、また、大水の日には低地に水が溜まって洪水となる。そのため背の高い木を配することや大きな池を造ることがむずかしいが、かわりに小さな谷ひとつを庭園ひとつで占有することができ、山を屏風のように背負って建物や植物を配置することでユニークな視覚効果を得ている。


また、「花の寺」「苔の寺」「竹林の寺」など、草花の美しさが印象的な寺社が数多く建つのも湿度の高さゆえ。ことにこの時期に訪れたいのが明月院、長谷寺、東慶寺、成就院、瑞泉寺、円覚寺など、数え挙げればキリがないほど多くの紫陽花の名所だ。慈雨を得てイキイキとした表情を見せる苔が美しい妙法寺、杉本寺もいい。海蔵寺や長谷寺、妙月院、東慶寺などは紫陽花に加えて杜若や花菖蒲も見頃を迎え、まさに百花繚乱の様相。寺社ではないが、江ノ電に沿って咲く紫陽花も鎌倉ならではの梅雨の風景だ。歩くだけでなく、ゆっくりと走る車窓から眺める花々や海の眺めも、盛夏とは異なるこの時期ならではの風情と言える。とくに鳥居の前を線路が横切る御霊神社のあたりは江ノ電と紫陽花、神社という鎌倉らしさ満点のコラボが楽しめるスポット。
さらにこの時期このエリアで楽しめる花といえば鎌倉文学館のバラも外せない。洋館を背景に咲き誇る色とりどりのバラは華やかで、明治から大正にかけて華族や政治家、作家等、名だたる名士が別邸を構えた時代の面影を残す。


散策に欠かせない休憩スポット、カフェも鎌倉の名物

街の散策、とくに鎌倉のように坂の多いエリアを歩くには休憩スポットは欠かせないが、鎌倉には素敵なカフェや立ち寄りスポットが多い。古民家を利用した趣あるスイーツ店に紫陽花をモチーフにした甘味が味わえる老舗の菓子舗、花の咲く庭を眺めて縁側で一息つけるカフェ、隠れ家レストランなど、選択に迷うほどの充実ぶりだ。お寺でいただく精進料理やお薄も鎌倉らしいの食の楽しみ。旅の思い出作りには最適のチョイスかもしれない。また、和食はもちろん、フレンチやイタリアン、チャイニーズと多彩な料理店の質が高く、わざわざ食事のためだけにこのエリアを訪れる食通も多い。豊かな海と山を抱えたこの地では地元の食材も豊富で、近年、評価の高まる鎌倉野菜はこの時期、はしりの夏野菜が皿を賑わせている。禁漁の時期を終えたしらすも出まわり、足のはやい生しらすをたっぷりとのせた丼は、この地に足を運んだ人のみが享受できる特別な美食と言える。


画像素材:PIXTA


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