Vol. 29

都大路に王朝絵巻が出現新緑と祭りに華やぐ夏の走り

光輝くような新緑が芽吹く
古都の初夏に立ち会う旅
葵の葉で飾られた平安装束の行列に
京都の歴史と文化の深さを再発見

目にも舌にも楽しい新緑の季節

旬の食材というのはいつの季節も特別なものだが、この時期、京料理を彩る旬の食材にはひと際心が躍る。挙げてみるなら筍に若鮎、山椒の花にうすい豆。山菜類も豊富だ。いずれも岩のあいだを割って奔る清流のごとき勢いがあり、みずみずしい。人生に例えるなら伸び盛りの青少年期だろうか、成長のための活力と繊細さを湛えた食材が目と舌を楽しませてくれる。
この時期の京都は庭めぐりをするのにも格好のタイミング。まだ少し黄色味を残した若々しい新緑が発光するように眩く、池泉の水も涼しげ。近年、京都には世界各地から大勢の観光客が押し寄せて、有名寺院などをゆっくり拝観するにはシーズンを選ぶ必要があるが、桜が散った後、ゴールデンウィークを除いた祇園祭りまでのひと時は比較的落ち着く。さわやかな風と静寂の庭を楽しむのに格好の季節という訳だ。
さて、数ある名園のどこを訪れるか。悩みどころだが、やはり、紅葉の名所を選びたい。「青もみじ」という言葉があるが、秋の紅葉が美しい場所は、初夏のこの時期の美しさも格別。冬の眠りから目覚めて力を増した日差しが青葉に当たって木漏れ日となり、秋とはまるで違った表情を見せる。
(『おとな旅プレミアム京都’19-’20年版』 P20)


祇園祭と並ぶ京都の大祭、葵祭を楽しむ

京都には、祇園祭と並ぶ大祭がある。賀茂祭とも呼ばれる京都でももっとも古いお祭り、葵祭だ。毎年5月15日、平安時代の装束に身を包んだ人々が都大路を歩く華やかな行列が有名で、まるで平安絵巻、などといった見出しでテレビや新聞などのニュースにもなるが、パレードだけが葵祭ではない。5月に入ると、競馬会足汰式(くらべまえあしぞろえしき)、流鏑馬神事、斎王代禊の儀、歩射神事、賀茂競馬(かもくらべうま)、御陰祭と、立て続けに前儀が執り行われる。名だたる老舗の各菓子舗にも葵祭をテーマにしたお菓子が並び、5月半ばまで、洛中全体が葵祭の気分に包まれると言っていい。
葵祭の始まりは欽明天皇の御代。天候不順と不作に見舞われた理由を占わせたところ、賀茂の神々の祟りであることが判明。神々の怒りを鎮めるべく、馬の駆け比べ等、盛大な祭りを執り行ったことで天候や五穀の実り、ひいては国が安定したのが祭りの始まりとされる。上賀茂神社によると歴史はさらに古く、太古の昔、お社の北北西に位置する神山(こうやま)に別雷神(わけいかづちのかみ)が降臨された際、葵鬘(あおいかづら)を身につけて祭事を執り行ったのが起源とか。いずれにしても、平安時代に入ると朝廷の律令制度によって任命を受けた国司が祭りの無事を検分するために遣わされ、天皇の命による勅祭となった。古い時代、政は祭り事と同義だったとも言われるが、葵祭は国の最重要祭事となったのだ。


現代の都大路に現れる王朝絵巻

いまも平安王朝の時代と同様、一連の祭礼の中心は賀茂競馬(かもくらべうま)と行列だ。それぞれ、5月5日の競馬(くらべうま)に先立っては5月1日に馬の優劣や組み合わせを決する競馬会足汰式(くらべまえあしぞろえしき)が、15日に行われる行列の前には、3日に巡行の無事を祈る流鏑馬神事、4日に斎王代とその列に連なる40名ほどの女性たちが身を清める斎王代の禊、5日の巡行沿道を清める歩射神事、12日には比叡山山麓の御蔭山から下鴨神社に神霊をお迎えする御蔭祭りが執り行われる。いずれの祭儀も市民や旅行者に広く開放されており、観覧可能。
なかでも旅行者にとって観覧しやすいのは、やはり15日の行列、路頭の儀だろう。乗尻(のりじり)と呼ばれる騎馬での先導者に続き、現代の警察に当たる検非違使や、山城使(やましろつかい)、内蔵寮史生(くらりょうのししょう)、馬寮使(めりょうつかい)といった平安時代の役人、天皇の勅使である四位近衛中将とその乗り物である御所車や帰路に備えての替馬、斎王代と斎王代に従う女官たち、歌や演奏、舞を奉納する人々や楽器など、総勢500名をゆうに越す人々が平安時代の装束に身を包み、馬36頭、牛4頭とともに京都御所から下鴨神社、上賀茂神社へと向かう。先頭の乗尻(のりじり)から斎王代の牛車まで、およそ1kmにも渡る大行列で、祭礼に関わるすべての人々や牛車、社殿にいたるまで二葉葵の葉と蔓で飾られている。
沿道には、年に一度、都大路に出現する王朝絵巻を見物しようと大勢の人が出るが、この光景も平安のころから変わらないらしく、源氏物語では斎王の禊に供奉する源氏の君の姿を見ようと出かけた正妻、葵の上と恋人、六条御息所、それぞれの従者たちが見物のための場所取りを巡って争う場面が印象的だ。
ともあれ、行列は上賀茂神社、下鴨神社に到着し、路頭の儀は引き続き社頭の儀へと移る。それぞれの社頭で勅使が御祭文の奏上、御弊物奉納、御馬のひき回し、舞の奉納が行われて祭りのハイライトが幕を閉じる。



旅の最後にもう一つ。私は京都を訪れた時、帰りの新幹線に乗り込む前に必ず求める菓子がある。宝泉堂の賀茂葵だ。粒のそろった丹波大納言小豆を水飴と寒天で固めた菓子で、葵の葉を模したハート形が愛らしく、上品な甘さと豆の風味が好い。下鴨にある本店と茶寮のほか、京都の新幹線駅構内にも出店しており、1枚からのバラ売りもしているため新幹線の中で食べるのにうってつけ。一見、何の変哲もない和菓子にも見えるが味、品格、物語性、いずれも京らしさ満点。旅の名残りに車中で味わうのが季節を問わず、帰路の習慣となっている。葵祭の時期には、ことさら味わい深く、小豆の甘さに癒される。
(『おとな旅プレミアム京都’19-’20年版』 P127)


画像素材:PIXTA


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