Vol. 27

雪の季節を経ていっそう艶やか北陸・金沢、城下町の春

春。桜前線の北上とともに
人々の心も浮き立つ新たな季節。
平成最後のお花見は、
江戸期の面影濃厚な古都で楽しむ

加賀百万石が育んだ華やかな文化

鈴木清順監督の『夢二』であっただろうか。長逗留する主人公の部屋を地元の職人の手によるものらしい布(北陸という舞台と物語のテーマから「花嫁暖簾」であると思われる)で飾った女主人が、大いに感嘆する絵師に向かって誇らしげな笑みを浮かべ「このあたりは暮らしに手間をかけるところですから」と応える場面がある。映画の舞台となった金沢が、東京から来た気鋭の芸術家をも唸らせる見事な品々で生活を彩る土地柄であることを端的に表したシーンだ。
金沢の文化の特徴は雅びな華やかさで、金箔や加賀友禅、九谷焼などが代表的であり、色調やデザインに特有の美意識を色濃く写す。ほかにも、漆器や蒔絵、加賀水引等の工芸品、加賀料理や日本酒、和菓子などが、衣・食・住と暮らし全般をきらびやかに飾っている。その鮮やかな文化が花開いた理由にはさまざまな説があり、加賀百万石の経済的豊かさや、北前船が運んできた上方の雅な風情と江戸に拠点を置く武家文化の交わり、利家公の時代に築城や武具製作のため移り住んだ職人たちの技術が太平の世になるにつれて上級武士たちの暮らしのための調度・工芸品作りに受け継がれたことなど、そのどれもが正しいのだろうが、最大の理由は、映画の中で妖艶な女主人が語った、暮らしに手間を掛ける土地柄、金沢の人々の美意識そのものにあるに違いない。


旅路で触れる伝統と文化

金沢が育んできた美意識は、平成が終わろうとする今もしっかりと息づいている。工芸品、酒に食、茶の湯や香道、花街での遊びまで、まさに手間暇をかけ、生活の隅々にまで気を配って暮らしてきた人々の結晶だ。旅のあいだに触れるほとんどすべてのものにその片鱗が宿るが、この際、前田利家公から数えて400年の年月が育んだ華やかな伝統にどっぷりとつかってみるのも旅の醍醐味。
料亭では、土地の食材や酒、料理に加え、建物、設え、蒔絵や九谷の食器、道具類を堪能。工芸品や和菓子などは購入するだけでなく、工程の見学や製作体験するのもいい。究極の文化体験と言えば、お座敷遊びだろう。お茶屋さんの多くが一見客お断りであり、お座敷遊びの真髄を極めるには常連客による手引きと、店との信頼を築く長い年月が必要だが、近年、芸妓さんの舞などが楽しめる食事会プランや体験プランも増加中。また、座敷に芸妓さんたちを呼んでくれる料亭などは、旅行者でも比較的気軽に利用できる。ひとたび座敷に上がれば、東、西、主計町あわせて約45名、もてなしと芸の手練れたる芸妓さんの歌や踊り、鳴り物や仕草に魅了される特別な時間が始まる。


金沢ならではの桜の風景

春の金沢といえば、もちろん花見も欠かせない。川辺、公園、お寺など、街には花の名所も多いが、金沢ならではの桜と言えば、江戸時代からの変わらぬ風景の中に咲く姿に尽きるだろう。日本三大名園にも数えられる「兼六園」、藩主が住まった「金沢城」、東、西と並ぶ茶屋街「主計町」の桜は、この街でしか見られない桜の風景だ。
兼六園は歴代藩主が長い時をかけて手を入れ造園してきた大名庭園で、40種、400本を超える桜が咲く。多くの品種が植えられているため花見が楽しめる時期が比較的長く、兼六園菊桜、楊貴妃など名前の付いた木々は、それぞれの木1本を目当てに金沢を訪れる人もいるほどの銘木。江戸町通りの並木や池に映る逆桜など、歩くにつれてさまざまに変わる花の表情も楽しく、盛りの時期1週間ほどは21:30まで開放されてライトアップされた夜桜も鑑賞できる。また、隣接する金沢城址公園とは一続きといって差し支えなく、薄霞のような花のあいだから望むお城の姿は格別だ。
城や大名転園が藩を挙げて造り上げた、いわばパブリックな桜の景色なのに対し、茶屋街の風景は人々の営みによるもの。金沢の花街は先の大戦での爆撃を免れたため江戸時代そのままの街並みが残り、路地に佇む桜の姿も風情がある。3つの茶屋街の中でも桜を愛でるなら主計町がいい。木造2買い建ての茶屋が軒を連ねる浅野川沿いの並木をガス灯がほのかに照らして、しっとりとした趣にしばし陶然となる。


画像素材:PIXTA


【LINE@でも配信中!】
特集記事はLINE@でも配信中です。ぜひ「友だち追加」してください。

友だち追加