Vol. 26

時代の新旧と異国情緒が層を成す港町、横浜の建築と風景

幕末、明治の船乗りが見た景色を想像し
この土地に積み重なった諸国の情緒を楽しむ
多様な文化を鷹揚に受け入れてなお、
横浜らしさが増す異文化交差都市

外国航路の船乗りたちが心を浮き立たせた3つの塔

横浜は、海から入るのがいい。贅沢を言えば、クイーン・エリザベス2世号のような豪華客船に乗ってしばしの船旅を楽しんだのち、入港するのがもっともよい。横浜の港は海上から望む姿が美しく、船上で過ごした時間があればこそ、感動がより高まるからだ。
外国とは船でしか行き来のできなかった開港当時、世界の船乗りたちは県庁、税関、町会所の塔をそれぞれキング、クイーン、ジャックとトランプの絵札に見立て、3つのタワーが美しい街と呼んだそうだ。長旅を経てたどり着いた陸地で出迎える3本のランドマークは船乗りたちの心を浮き立たせたに違いなく、ことさら印象的に見えたのだろう。この3つの塔は関東大震災で倒壊、消失したものの見事に再建され、有形登録文化財、重要文化財となった。いまも神奈川県庁本庁舎、横浜税関、横浜市中区公会堂(横浜開港記念会館)として現役で活躍する名建築だ。これらの塔や赤レンガ倉庫、ホテル・ニューグランドなど明治、大正、昭和の初期に建てられた歴史的な建物に加え、ランド マークタワー、インターコンチネンタルホテルといった高層ビル、大観覧車のコスモクロック21、ベイブリッジ、大桟橋等の建造物に至るまで、新旧が美しく共存するエレガントな港の景色は、海から眺めてこそのパノラマ。昼、夜景を問わず、一度は目にしておきたい横浜の顔だ。


シーバスに乗って日常から旅の舞台へと出航

とはいえ、数日~数カ月に及ぶ豪華クルージングの機会はそうそう訪れない。そこで提案したいのがシーバスである。横浜駅東口、そごうの脇から出航し、山下公園に到着する片道大人700円ほどの海上交通だ。直行なら約20分、みなとみらい、赤レンガ倉庫を経由する便なら30分ほどの船旅で、氷川丸の真横に接岸する。日常の生活感が漂う横浜駅から旅情を掻き立てる風景の只中へと一気に転換するドラマティックなアプローチ。桜の季節なら、汽車道の並木など、建物の間に花開くピンクの木々が霞のようにたなびき、上陸時には山下公 園の桜が出迎えてくれる。また、桜の季節が終わる4月下旬からは、横浜市の花でもあるバラの季節が始まる。港の見える丘公園、山下公園等の有名スポットだけでなく、カフェの店先や民家の路地など、散策途中にみかける日常風景の中のバラも華やかだ。
シーバスの着く山下公園を起点に山下公園通りを渡って中華街、元町、山手方面を散策するもよし、海沿いを歩いて馬車道、汽車道からみなとみらい地区へ向かうもよし。どちらに進んでも異国文化と、開国から21世紀にかけての時代の層がくっきりと、しかし調和を持って 重なる横浜らしさ満点のルート。中華街で味わうチャイニーズ、老舗の洋食店、洋館カフェ、ビル高層階の展望レストランなど、いずれも横浜らしく、しかもバラエティに富んだ食や休憩スポットにも事欠かない。


貿易商が築いた日本建築コレクション

横浜の歴史と佳景、建築をさらに深掘りするなら、三渓園に足を延ばすのもいい。みなとみらいや山下町、山手周辺とはガラリと趣を異にする日本庭園だ。明治の頃、横浜港を代表する重要輸出品目であった生糸を商って財をなした実業家、原 三溪氏によって造園されたもので、17万5000m2もの広大な敷地に日本各地から移築した古建築が多数、点在する。豊臣秀吉が母のために建てたお堂や、徳川家光が造らせ春日局に与えたとされる建物をはじめ、文化・歴史的にも、もちろん造形的にも見事な日本建築が間近に見られる壮大なスケールの日本建築コレクションだ。
また、夏は睡蓮やハス、花菖蒲、秋の彼岸花や紅葉、冬には水仙、椿、ウメと、通年、花々や植物が来訪者の目を楽しませるが、ことに春は華やかさが増す。桜はもちろん、ユキヤナギに始まり、山吹、藤、ツツジ、サツキと、季節が進むに連れ、色とりどりの花々に彩られる。


画像素材:PIXTA


【LINE@でも配信中!】
特集記事はLINE@でも配信中です。ぜひ「友だち追加」してください。

友だち追加