Vol. 16

武家屋敷の黒板塀を背景に広がる赤や黄色に色づいた木の葉の錦

映画『たそがれ清兵衛』の舞台としても知られる
秋田、角館の武家屋敷通り。
侍たちが暮らした江戸期に思いを馳せ
季節そのものを湛えた木々の景色を楽しむ

四季それぞれに美しい「みちのくの小京都」

角館は春、というのが定説になっている。駅やホテルに貼られた観光ポスターも桜の写真を使ったものが多く、実際、その時期に訪れてみれば武家屋敷の黒板塀を覆う薄桃色の花が圧倒的な絶景を成す。全長800mほどの武家屋敷通りに植えられたシダレザクラは約400本。樹齢300年を超えるものもあり、天然記念物に指定されている木だけで162本を数えるという。さらには桧木内川堤から古城山公園まで、実に町じゅうが桜色に染まり、多くの旅行者を惹きつけている。

 

だが、黒板塀に映えるのは桜花だけではない。眩しい夏の日差しに輝く緑の葉、一帯がモノクロームの世界になる雪景色もまた、古いお屋敷の立ち並ぶ通りならではの美しさ。

 

中でも秋の紅葉は素晴らしく、落ち着いた華やぎが角館という町によく似合う。黒い塀を額縁に、黄緑、黄金色、真紅と色のグラデーションが鮮やかに広がり、モミジ、イチョウ、シダレザクラ、カエデなど、葉の形と大きさが異なる木々の個性も面白い。シダレザクラは佐竹北家2代目の義明氏妻女が嫁入りに際して持参したのが始まり、カシワは新芽が育つまで葉が落ちないため、家が途絶えないことを願った武家に人気の木であったなど、武士の町ならではのエピソードに触れると、目だけでなく知的好奇心まで刺激されて、紅葉の景色が一層奥深く感じられる。

   

400年変わらぬ街の始まり

角館街道、生保内街道、阿仁街道、刈和野街道、繁街道と縦横に延びる街道が交わる角館は、古くから交通の要衝として栄えていた。中世、北浦地方の領主であった戸沢氏は、人と物とが集まる地の利の良さに着目してこの地に城を移したという。

 

江戸時代に入り、関ヶ原の戦で徳川家康の命に従わなかった佐竹義宣が常陸から秋田に国替えとなって久保田藩(秋田藩とも呼ばれる)を立藩。佐竹氏の分家である佐竹北家が角館を治めることとなった。1615年、元和の一国一城令によって城を館構えにした際、河川の氾濫や火事などの災害と、戦が起きた場合を想定した街づくりを行なった。火除け地を作り、6間(11m)もの道幅をとるといった町割りは現在に至るまでまったく変わらず。城に近いほど位の高い家=広い屋敷を配置し、攻め入ってきた敵を翻弄するため通りにクランクを設けるなど、考え抜かれた都市計画であったことが窺われる。


 

以降、角館は奇跡的とも言える幸運に恵まれ、大火や戦火に見舞われずに400年もの月日を経た街並みが現存している。
さらに角館が魅力的なのは、伝統的建造物群保存地区として古い街並みを保ちつつ、今なお人々の暮らしが息づいている点だ。青柳家や岩橋家など、敷地内を見学させてくれる家もあり、石黒家では公開部分を除くエリアに直系の子孫が今も住まっている。石黒氏自ら屋敷を案内していただいたり、映画『たそがれ清兵衛』で清兵衛の妻、朋江の実家として使用されていた岩橋家の門の前に立ったりしていると、江戸時代と現代、映画と現実の世界が入り混じるような気さえする。


また、古い建物を利用したお店で稲庭うどんを食したり、山桜の皮を使った樺細工を買ったりと、旅の楽しみは尽きない。伝統工芸品などを扱う「さとくガーデン」では秋田犬の武家丸が看板犬を務め、旅行者の人気を博している。

 

画像素材:PIXTA


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