Vol. 14

やわらかい日差しを受けてそよぐ銀の穂ススキの大海原に遊ぶ秋の1日

金時山、丸岳、乙女峠などの外輪山に縁取られた
広大な野を埋め尽くすススキ。
「かながわの景勝50選」「かながわの花の名所100選」と
箱根のみならず、県を代表する景勝地のひとつだ。

秋の日にキラキラと光るススキの穂

 

箱根、仙石原では9月も半ばを過ぎるといっせいにススキの穂が開く。夏休みのあいだは、ただの原っぱにしか見えなかったはずの草地だが、穂を広げたとたんススキの群れが圧倒的な存在感を示し、突然、幕を引いたように秋の風景へと一変する。暗転後の舞台を思わせるドラマティックな変化は、毎年、_ハッとするほどに鮮やかだ。  

 

ゆるやかな斜面を覆い尽くす秋のススキは大人の背丈ほどもあり、幻想的ですらある。そのただ中を歩けば、皆、童心にかえったような心持ちになるようで、すれ違う多くの観光客のあいだから「アニメのようだ」「まるで童話の世界だね」といった声が聞こえて来る。

 

野原は秋が深まるにつれて、やわらかな亜麻色から濃い黄金へと色を変え、11月の半ば、綿毛に包まれた種が風に飛んでススキの季節が終わる。11月に入ると散策する人の数も減って、ふわふわと綿毛の舞う景色は一層、幻想的な趣となる。

   

人々の手により維持される草原の景観

 

仙石原という地名は「この土地を開墾すれば、千石の米がとれるだろう」という源頼朝の言葉に由来する、という説がある。だが、広い原野は実際には米作りに適さず、長い間、茅葺の屋根や、霜よけの敷き藁の採草地として地元の人々に利用されてきた。  

 

しかし、かつては人の暮らしに欠かせなかった藁も昭和30年代に入ると需要が激減。人が手を入れなくなったススキ野原は、潅木の混じる荒れた土地になりつつあったという。このままでは湿原を含めた仙石原一帯が森林化してしまい、貴重な湿生植物や国立公園としての景観も失われてしまうと懸念した地元の人々が立ち上がり、平成元年からは野焼きが復活した。
以降、3月になると晴天の続いた風のない日を選び、地元の自治体や消防団、消防署がタッグを組んで草原を焼く。人の手によって、春ごとに炎の中から再生を果たす姿もまた、仙石原の歳時記の一部となっている。  

 

紅葉、芸術も仙石原、秋の楽しみ

 

秋の仙石原の楽しみはススキだけではない。域内にはガラスの森美術館、ラリック美術館、星の王子様ミュージアム、ポーラ美術館とアートに触れることのできる施設が多く、芸術の秋を満喫するのにも抜群の環境が整う。  

 

また、ススキの草原から車で5分、散策がてらに歩いても30分ほどの場所に万治元(1658)年創建という古刹、長安寺がある。箱根を代表する紅葉の名所でもあり「東国花の百ヶ寺」にも数えられているが、五百羅漢でも有名なお寺で、黄や赤に染まった紅葉の舞散る広い庭には、さまざまなポーズや表情の石仏が点在。現在も少しずつ増えているとのことで、苔むしたものから真新しいものまであり、憤怒の表情やおどけた姿など、いずれも動き出さんばかりにイキイキとした仏さまばかりだ。

 

さらに、仙石原は美食が楽しめる店も多い。豆腐の「勝俣豆腐店」、ソーセージやハムなどの「腸詰屋」、大正時代創業という老舗の甘味店「仙谷花詩」、温泉も楽しめる釜飯専門店の「かま家」など、質の高い専門店が集結しており、食欲の秋までしっかりと堪能できる。  


画像素材:PIXTA


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